「整理されたキレイな街」という
思い描いていた姿とはまた異なる、
ラフで予測不能なシンガポールを表した
街中の“自然”の数々をコラージュ。
初めての海外、初めてのひとり旅でも、やりたいことを全部やる。そんなちょっぴり無鉄砲な気もする欲張りな旅人でも、シンガポールはしっかり受け入れてくれました。本誌では実に40を超えるトピックスを紹介しましたが、実はこの国に行こうと決めた明確なきっかけがあります。それが、インディペンデントなアートブックのパブリッシャー・Temporary Pressの存在。彼らが見つめるこの街の姿をグラフィックにしたのが、このTシャツです。
Temporary Pressが、シンガポールを観察し、作り続けているZINE『Forming Cityscapes』の写真をPOPEYEがセレクトしコラージュしたのが今回のグラフィック。このZINEのシリーズのこと、シンガポールのことについて、話を聞いてみました。
Publisher
Temporary Press
テンポラリー・プレス|グラフィックデザイナーのGideon Kong(写真右)とプロダクトデザイナーのJamie Yeo(同左)が、2017年に創業。リソグラフで印刷したアートやデザインに関する本を主に出版している。スタート当時のアトリエは3畳ほどのスペースだったが、現在は工業ビルの一角に広々としたスタジオ「Temporary Unit」を構え、ドアを開けてすぐそばのスペースを書店にもしている。そこに並ぶZINEやアートブックは、彼らが制作・出版したものだけでなく、韓国や台湾などのアートブックフェアで見つけた作品までさまざま。出版する本のテーマも独自の視点があり、かつ多岐に渡り、お互いの役割分担も特に決めず、アーティストとの共同プロジェクトも行うし、ワークショップも開催。その時々により“テンポラリー”に活動しているそう。
Instagram: @temporarypress
スタジオ「Temporary Unit」。
今回のTシャツのグラフィックに写真を使用させてもらったZINE『Forming Cityscapes』シリーズ。シンガポールの街をテーマを1つ決めて“観察”し、リアルな様子を捉えている。左から、#5「Traffic Cones」、#6「Bins」、そしてこのTシャツのために写真を選んだ#8「Plants」。今のところ#9までリリースされている。
Interview:
ーシンガポールという街を”観察”するというこの『Forming Cityscapes』シリーズは、いつからスタートしたのですか?
Temporary Press(以下、TP):私たちが学生の頃から始めました。でも、もっと若い頃、私たちがデザインを学び始めた2005年くらいから写真を撮っていました。最初は特別な意図はありませんでしたが、ごくありふれたものだけど、よく観察し考察すると興味深く思えるものに惹かれていきました。コレクションとして整理し始めたのは、こうして観察しているものたちが日常を生きる人々によってデザインされたものであり、ときにお決まりの機能やデザインに真っ向から対立していると気付いて、より注意深く考えるようになってからです。
ーこのシリーズはあなたたち自身が自分のiPhoneで撮影しているそうですね。それはなぜですか?
TP:完璧な写真を撮ることが目的ではなく、自然発生的な行動や観察をできるだけ早く、便利に記録することが目的だったからです。携帯電話は、できるだけ目立たないようにこれを可能にする完璧なツールです。基本的なルールとして、私たちはなるべく人の顔を写さないようにしています。もし顔が写っていたとしても、かなり遠くからズームして撮影するため、解像度が低くなり、顔が見えにくくなる。また、写真を撮るために手を上げたり伸ばしたりするようなことをせず、自分達の姿勢をあまり変えません。私たちはできるだけ自然な姿で、その場に溶け込めるように心がけています。歩いて移動しながら撮影することもあります!
ーなるほど、解像度やブレ具合にムラがあるのはそういうことだったんですね。このヘザーグレーのTシャツに選んだ#8「Plants」は街の中にある植栽を捉えていますね。どんな内容か、解説してもらえますか?
TP:#08「Plants」には、人との関わりが多分に含まれた作品になりました。特に、日陰を作らせたり、何か物を吊り下げたり置いておいたりするなど、「公共の家具」であるかのように利用・乱用されている例が多いです。装飾された植物や、装飾として使われる植物も、多く観察されました。
ーそういった”観察”を経て気付いたシンガポールの魅力はありましたか?
TP:このシリーズを通して浮かび上がったシンガポールの特別な特徴や魅力があるとは思いませんが、シンガポールは高度に「手入れされた」都市として描かれることがありますよね。そういうときに、この都市が私たちにとっていかに興味深いものであるかを、この"観察”は明らかにしてくれます。私たちはこれらの写真によって、例えばネット上で描かれるイメージとはまったく異なる、この街の荒々しさや予測不可能なことを発見しているのです。
というか、実際このシリーズがTシャツにうまく使えるかどうかはわからないですね……! でも、街の路上で撮ったこれらの写真がTシャツのグラフィックという形でストリートに戻ってくれば、とても面白いし、ユーモラスなものになると想像しています。ストリートを「歩く」出版物のようなもので、不特定の人に対して自発的な読書との出会いをもたらすことができると思います。
ー最後に、シンガポールってどんな国だと思いますか?
TP:私たちは整備された都市がもたらす快適さを享受していますけど、もう少しゴチャゴチャしていて無計画なほうが、人生をより豊かにし、より創造的な可能性を提示できるのではないかと考えることもあります。おそらく、私たちにとってシンガポールがエキサイティングな場所だと思えるようになるためには、物事を深く掘り下げ、よく見て、街について一般的に語られる何かに代わるものを切り出そうとしてみるしかないのだと思います。
私たちはこの国に友人が来たら、そのような可能性を秘めた場所や空間に連れていきます。そのうちのいくつかは、この『POPEYE』の最新号にすでに掲載されていますよ。