伝統的な文化も、モダンな感性も。
ジャカルタとバンドンで味わえる
旅の醍醐味に陶酔できる、
まさにサイケデリック・アート!
首都・ジャカルタと、ジャワ島の中央に位置する山間の田園都市・バンドンを訪れたインドネシアの旅から生まれたTシャツ。
バックに大きくプリントしたコラージュのような一枚絵は、ジャカルタで出会ったアーティスト・Ardneksがこのために描き下ろしてくれた作品です。
Khruangbinや幾何学模様にもアートワークを提供してきた彼のことは、日本でもすでに知っている人が多いと思います。今回のPOPEYEへの作品について話を聞きました。
Artist
Ardneks
アルドネックス|1989年、ジャカルタ生まれ。子供の頃から絵を描くことに熱中し、学校のノートは『ドラゴンボール』『あしたのジョー』『聖闘士星矢』などのキャラクターで埋め尽くされていたという。高校生の頃に、自宅の裏にレコードショップができて通うようになり、毎日音楽を発見し、レコードジャケットに夢中になったのが本格的にアーティストを目指すきっかけだった。グラフィックデザインを学び始め、ライブに出かけ、地元のバンドやイベンターからポスターを作る仕事をもらうようになり、その作品をSNSに投稿したら次々に連鎖反応が起き、現在に至る。アジアの新進気鋭の作家たちを発掘するUNKNOWN ASIA Art Exchange Osaka で、2016年にグランプリを受賞。
Instagram: @ardneks
Ardneksに出会ったのはジャカルタのインディペンデントなアートショップ&ギャラリー『Sunset Limited』にて。取材に行くとこの街のアーティストたちが集まってくれていた。写真の左から2番目がArdneks。
『Sunset Limited』の店内。ジャカルタやバンドンなど、インドネシアの作家たちの作品が並ぶ。
Ardneksの10年間のアートワークをまとめた作品集『COASTAL VISION』は昨年出版されたもの。
Interview:
ー 今回のアートワークには何が描かれているのでしょうか?
Ardneks(以下、A):ジャカルタとバンドンの魅力を1つの絵に収めましたが、とても難しい制作でした。なぜなら、それぞれの都市には伝統的なものから近代的なものまで、実に多様な文化があるからです。なのでもう、この2つの街について考えてみて最初に思い浮かんだものを描くことにしました。
左上は「Ondel-Ondel」(オンデル-オンデル)と呼ばれるものです。ジャカルタの原住民族・バタヴィア族の伝統芸能に出てくるパペットです。右上は「Cepot」(セポット)。こちらはバンドンの原住民族・スンダ族の人形劇「Wayang Golek」(ワヤン・ゴレック)のキャラクターです。
中央上はココナッツの木。赤道直下に位置する緑豊かな熱帯の国、インドネシアを象徴しています。
その下、1つ目の風景は、高層ビルが立ち並ぶ活気あふれるジャカルタのシティラインを描いたもの。2つ目のはバンドンで、こちらも都市として活気はあるけれど山間部の高原に位置しているのでより自然に近いのです。私はこの2つの風景を音楽と食べ物で結びつけてみました。どちらの街にも素晴らしいミュージック・シーンがたくさんあり、料理の種類も豊富です。左のお皿はインドネシア料理の定番であるナシゴレン、右のお皿はガドガドと呼ばれる料理(主にピーナッツのソースをかける、ミックスサラダ)です。
インドネシアは織物でも有名で、38の州それぞれに独自のテキスタイルがあります。左下はジャカルタ、右下はバンドン、それぞれの伝統的なモチーフです。
中央はインドネシアの地図。そして「Whoosh」(ウーシュ)という電車で、ジャカルタとバンドンを結ぶインドネシア初の高速鉄道です。これまで車で片道3時間かかっていたのが、電車で30分で行けるようになったんです。
このアートワークで、世界は広大で素晴らしいということ、そして旅を始め、異文化を体験することに遅すぎることはないということを伝えたいなと思っています。
ー「Whoosh」は特集の旅でも乗りました。日本が支援して開通した、新幹線のようなものですね。時速350km近くでぶっ飛ばすその速さを体験したのはいい思い出です。作品ではタイポロジーも独特だなと思いました。それぞれの文字について、何かインスピレーション・ソースがあったのでしょうか。
A:これは私のオリジナルのフォントで、1つ1つの文字が異なる形を成しています。多様性を表現したかったのです。イギリスのビジュアル・アーティスト、Raissa Pardiniが始めた「Group Font」という37人のアーティストがそれぞれ文字を提供するという素晴らしいプロジェクトにインスパイアされました。ちなみに、「Terima kasih」(テリマ カシ)はインドネシア語で「ありがとう」、「Punten」(プントゥン)は「失礼します」という意味です。この2つの単語は覚えておくと、どのエリアを旅するときにも役に立つと思います。
ーどちらもインドネシアでのいわゆる公用語ですね。でも民族が多いことから方言もかなり多いようで、例えば「Terima Kasih」ならバンドンでは原住民が使うスンダ語の「Nufn」(ヌフン)になって、近いのに変化が大きいことに驚きました。それであなたの作品についてですが、僕らも好きなミュージシャンのクルアンビンや幾何学模様のツアーのポスターなども手掛けていて、日本でもファンが多いと思います。創作全般におけるインスピレーション源があれば教えてもらえますか?
A:アーティストとして成長するために、たくさんの影響を受けてきました。レコードジャケット、映画、レトロな雑誌などなど......。でも特に影響を受けたのは、1960年代後半から70年代にかけてのサイケデリックなグラフィックです。初めて知って勉強したとき、私の心は完全に打ちのめされました。まるでルールがないかのように、文字通り好きなようにデザインできる。目にすると、人々は立ち止まり、それを解読しようとして頭を回転させる。そんな魅力に、私は美しさを感じています。グラフィック・アーティストとして最も影響を受けた人物の一人に横尾忠則がいます。彼の作品には、言葉で言い表すことはできないけれど、感じることのできる禅の境地があると思っています。
ー制作のいつものプロセスを教えてもらえますか?
A:作品のアイデアが浮かんだら、まずリサーチをします。映画を観たり、本やインターネットを見たりして、伝えたいストーリーについてもっと知り、インスピレーションを集める。それから音楽をかけて、タイポグラフィや構図などを考えながらスケッチを始めます。納得がいったら、絵の場合は描くけど、デジタルの場合はスキャンしてベクター化し、マウスを使ってコンピューターで色を塗ります。それから、私の創作プロセスで重要な、あるステップがあります。アーティストとして、私たちはいつも自分の作品に満足できない傾向がありますが、それは制作に多くの時間を費やし、意識がその作品に完全に集中してしまうからだと思うのです。だから、私のコツは、完成したと思ったら寝てしまうこと。そのまま放置して、他のことをして、ただ眠る。そして翌朝目が覚めたら、またそれを見る。それで満足できれば完成なんです。
ーサイケデリック・アートは色使いに魅力があると思います。あなたが本当に好きな色って何ですか?
A:鮮やかで彩度の高い色が好きですね。遠くから見ても存在に気付けるので。まるで孔雀を見ているかのような感覚で。孔雀はあなたをサイケデリック・アートに迎え入れてくれますよ。
ー最後に、インドネシアってどんな国だと思いますか?
A:この国の熱帯群島は17,000を超える島々からなり、それぞれの地域によって異なる固有の文化や言語が存在します。ジャカルタやバンドンのような大都市では、サブカルチャー・シーンも同様に多様です。音楽、アート、料理など、誰もが楽しめるものばかり。ジャカルタでは、音楽やクラブシーンを掘りたいなら、Blok Mエリア、ミュージックバーの『Slits』、ライブベニューの『Krapela』、そして『Zodiac』というクラブがオススメです。アートなら『Dia.Lo.Gue』や『Museum Macan』など。バンドンにも、チェックすべき素晴らしい場所がたくさんあります。アートショップの『Grammars』があるCihapit(チハピット)というエリア、ダゴの丘にあるギャラリー『Selasar Sunaryo Art Space』、『Orbital Dago』など。そしてジャカルタもバンドンも、素晴らしいレストランとコーヒーのシーンがありますよ。多すぎるから、まずはその人の好みを聞くことから始めないといけませんね。
ArdneksことKendra Ashimaは現代美術作家でもあり、ミュージシャンでもある。「Crayora Eyes」というサイケデリック・ロックのバンドのメンバーで、ベース担当。ジャカルタの『Krapera』で彼らのライブを観ることができた。