雑司ヶ谷の『CUP AND CONE』が作った東京のチノパン。
『CUP AND CONE』店主・依田亮さんとPOPEYEは、ショップが2013年にオープンした3日後からのお付き合い。今回はお店が『ポパイ』にはじめて載った、2013年6月号「東京タウンガイド」をアイデアソースにして、チノパンを作ってくれました。
ーこれって<CUP AND CONE>の定番ですよね。ヒップとワタリがデカくて、いい感じにテーパードしていて。
依田:そうですね。ウェストはゴムとドローコードで締めるから、かなりリラックスした感じではけます。だけど裾に向かって結構テーパードされていて 長さも絶妙な塩梅に設定しているから、だらしなくなりすぎず、ちょうどよくはけるパンツです。
ーストリート感があって、品もあって、というのを考えてアップデートしてきているイメージがあります。今のモデルで、もう何代目ですか?
依田:7代目くらいですかね。もともと、<ディッキーズ>の874を自分でミシンで縫い直して、形をカスタムしてはいていたんです。それが一番最初。いろいろ改良して自分で調子よくはいていて、信頼できる工場にそのまま渡して「これを御社で作れる形で作ってください」って頼んで出来上がったのが原型ですね。
ーヘぇ〜、一番最初は874だったんですね。
依田:そう。874ってワークウェアの工場で作られているから、ベルトループごと縫っているとか独特なクセがあるんだけど、そういうのは省いてシンプルに、でも生地は100%コットンのしっかりしたツイルに、という感じで。
ーこの形にたどり着いてどのくらいですか?
依田:まだ1年くらいですね。前はもっとテーパードがキツかったり、丈が短かったり、極端なところもあったんですけど。
ーそれで、コラボで作るパンツのデザインソースとして、今回選んでくれた思い入れのある1冊は、2013年6月号の「東京タウンガイド」ですね。
依田:うちの店を初めて取材してもらった号です。
#794 2013年6月号「東京タウンガイド」特集
ーお店をオープンしてすぐくらいでしたよね。
依田:今は移転しましたが、前の鬼子母神の近くの場所で、2013年の3月にオープンしました。金曜の夜にレセプションパーティをやって、2〜3日したある日の夕方に、POPEYEのライターさんがフラっと来てくれたんですよ。完全に奇跡だなって思いましたね。
ーお店を始める前にブランド自体はスタートしていたと思いますけど、依田さんの経歴ってどんな感じなんですか?
依田:大学を出て、文房具メーカーに就職したんです。新人だけど商品企画部に入れてもらって、都心のすごく立派なオフィスビルに私服で通勤してました。そこは当時まだ「先輩より先に帰るな!」的な雰囲気があったから、業務をこなした後に強制残業してる時間があって。そこでフォトショ・アドビ・イラレなんかをひと通り身につけちゃいました。Adobeのマニュアルなら経費が落ちたので(笑)。それがデザインができるようになる礎みたいなものですね。
ー意外だけど、サラリーマンやってたんですね。
依田:はい。でも1年で辞めました。今ならうまく立ち回れるかもしれないけど、23歳の僕には無理でしたね。池袋の実家でダラダラしていたら、父が見かねて「手伝う?」と。ほら、よく秋と冬にスキーとかスノーボードの商材をビッグサイトとか幕張メッセとかで大セールしているじゃないですか。父は脱サラして、あれに商品を出す自営業をやっていたんです。ああいう大セールって、全国規模で考えると各地で毎週やってるんで、父は日本を巡業して秋と冬で1年分の稼ぎを得て、春と夏は高校野球を見に行ってる、みたいな暮らしをしているんです。その手伝いを3、4年くらいやったのかな。
ーお父さんの春と夏は、悠々自適ですね。羨ましいです。
依田:家族からしたら「お父さん、マジ自由だな」って見えるんです。正直、それで価値観が変わったっていうのもあります。間近で見ていて、もうサラリーマンには戻れないなっていう気持ちがありつつ、でも僕はこの仕事を継ぐほど好きにはなれないと思っていて。2010年に、趣味みたいな感じでシルクスクリーンプリントでTシャツを作り始めて、原宿の古着屋『シエスタ』などに置いてもらっていたけれど、「いよいよ再就職かな」「将来どうしよう」って思いながら近所を散歩してたら、旧店舗の物件が目に入ったんです。ちょうど空いてたから「自分でお店やっちゃうかー」ってギャンブルめいた気持ちで不動産屋に問い合わせたら、家賃が安くて。これならたとえばコンビニで夜勤しながらでも続けていけるかも、なんて思って始めちゃったんです。結婚もしてなかったし、失うものは何もない、このままよりは一発やっちゃえ、みたいな。
ー思い切りがすごいですね。
依田:それが27歳で、店をオープンしたら3日で『ポパイ』が来て、すぐ取材が決まって、その1ヶ月後くらいの東京特集で紹介されて、表紙にまで載っちゃったんです。小さいイラストですけど(笑)。
ーそんなスピード感だったんですね。それで、この表紙に描かれたTシャツのイラストを、パンツのフロント、左ポケットの下に刺繍したってことなんですね。
依田:はい。ページでも紹介してもらったTシャツです。
ーこのTシャツはカリフォルニアのハードコア・パンク・バンド、Black Flagの代表的なロゴをパロディしているように思いますが、“CUP AND CONE”っていう名前はやっぱりそのあたりからの、アイスクリーム由来なんですか? ヴォーカルのヘンリー・ロリンズがワシントンDCの『ハーゲンダッツ』でバイトしてたし。
依田:いや、それは本当に偶然なんです(笑)。「CUP AND CONE」っていうのは自転車の部品の名前から取りました。もともと自転車が好きで、スケートボードのイケてる服のブランドはあるけど、自転車のそういうブランドがあってもいいじゃん、っていう考えで始めたので。そしてデザインをするときは、これももともと好きだったハードコア・パンクのキャッチーなモチーフと自転車を無理矢理結びつけてました。だいぶ稚拙なデザインではあったんですけど(笑)。 ーなるほど。これはそういう1枚なんですね。依田:はい。自分がプリントした中では最も版数が多い、5色刷りのデザインでした。Black Flagの誰もが知っているロゴを、自転車の世界選の優勝者に贈られる名誉あるジャージ「マイヨ・アルカンシエル」の虹色みたいなカラーリングにして。本当は黒い棒が4本なのを、アルカンシエルの5色に変えた、っていう、今考えるとバカみたいな(笑)。これも自分で刷って、なんとかやってましたね。そうそう、ページではうちのことを「パンクとバイシクルの交差点」って書いてくださったんですよ。感動しましたね。店のコンセプトをこんなに端的に、雑誌映えする言葉でまとめて、しかも間違いがない。すげえなって思いました。
ー今の<CUP AND CONE>は当初とまた違った商品のラインナップで、ベーシックで質のいい服を並べていますよね。だから、今回はどんなものを作ってくれるのか、一番予想が難しかったんですが、この刺繍の、イラストの再現性がすごく高い。打ち込みの数・糸のボリュームもかなりリッチでクオリティがいいし、驚きました。
依田:これは東京の<Laugh & Sunny Day>さんにやってもらいました。『MIN-NANO』のゴローさん(店主の中津川吾郎さん)に、以前一緒にものづくりをしたときにご紹介頂いて。製品になってから刺繍してもらっているので、本来はかなり難しいようなんですが、バッチリやってくださいました。
ーかなりビシビシに打っていて、いい感じですね。
依田:よ〜く見るとこの、黒の線と、黒の塗りつぶしとで、糸の太さを変えていて。職人だなぁ〜って思いますね。
ーなるほど!縁と、中とで。縁があるのがはっきりわかりますね 立体感もある。
依田:今回はイラストをできるだけ忠実に再現したかったので。かなりキレイに、職人さんにやってもらってよかったです。
右のバックポケットには<CUP AND CONE>とPロゴのオリジナルネームが。Pを裏返せばもちろん「for CITY BOYS!」だ。
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profile
依田亮
『CUP AND CONE』店主
よだ・りょう|1985年、東京都生まれ。2010年に<CUP AND CONE>をスタート。2013年、雑司ヶ谷に路面店をオープン。2021年11月、同じ雑司ヶ谷エリアにある現在の場所に移転。Tシャツ、スウェット、ボトムス、キャップなど、細部にまでこだわりが行き届いたストリートウェアが並んでいる。
●東京都豊島区高田1-40-11
☎︎03・5962・0662
金17:00〜20:00、土日12:00〜18:00
月〜木休
Instagram: @cupandcone_jp
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